数ヶ月前から、娘に魚釣りに行こう、と何度も誘われるようになった。無趣味の娘が趣味を持つことは大いに嬉しいことではあったが、山歩きに、音楽に、サッカーにと、多趣味を極める私にとってはこれ以上の趣味は持てないという理由と、さして魚釣りにそれほどの興味もなく、ずっと断り続けていた。
釣りに関して言えば、中学の時に淡路島で石鯛を、高校時代に日本海でキスを、それぞれ竹竿で釣った経験はあるものの、学生時代から音楽とサッカーに明け暮れていた私には釣りを趣味にする、という気持ちは更々なかった。
そのうち、娘にせがまれて釣具を買うのに付き合わされるようになり、挙句の果てには私のためにとお手ごろな釣竿まで購入(私の財布からだけど…)させられ、とうとういつ行くのか、というところまで話が進んでしまった。
もうこうなれば行くしかない、という状況を作られてしまった私は、ついに魚釣りに行ってきたのである。
公休日の火曜。深夜1時に起床すると、出かける支度を整え、荷物を車に積み込むと、娘と2人、2時に出発した。深夜なので車も少なく快適に走り始めた。
ふと、忘れ物があるのでは…、とそんな気がして娘に、
「釣り竿は積んだんか?」
「ぁあっ! 忘れた!!」
笑うしかなかった…。一旦、家に戻ると、竿を積み込んで再出発。43号線の武庫川手前にある釣具店に立ち寄り、アミエビ冷凍ブロックを購入。いざ目的地の兵庫突堤を目指した。
少しでも早く釣り場を確保したいとの思いで、西宮に入ると阪神高速に…。最近、加齢により特に視力が大幅に衰えている私は、なんと間違って名神高速に入り込んでしまった。これでは尼崎に逆戻りだ…。また、笑うしかない…。
尼崎でUターンすると阪神高速「摩耶」で一般道に出てガソリンを補給。ナビを見ながらなんとか兵庫突堤へとやってきた。日曜の混雑しか知らなかった娘は閑散とした釣り場に驚いていた。時刻は4時に近くなっていた。
突堤の南東角に車を止めると荷物を降ろし、娘が準備を始めた。勝手が分からない私は、折りたたみイスを組んだり、ライトで娘の手元を照らしたり、とそれなりに準備を手伝った。気温は若干低めだったので、上着を羽織った。
何とか準備を終えると、いよいよ釣りの開始だ。夜明けが近いのだろう、東の空の雲が薄っすらと白味を帯びてきたが、夜景はまだまだ美しかった。アミエビをさびきカゴに詰めると見よう見まねで釣り糸を海面に降ろした。さびき釣りというらしい。さびきカゴの上には擬餌針が5〜6箇所に付けられてあった。
(4:26)
(4:40)
2〜3度目にさびきカゴを海に降ろしたとき、手に軽い衝撃を感じたがそれは不発だった。娘の方は、同時に2匹のカタクチイワシを2度ばかり釣り上げていたが、その後にようやく私の竿にもカタクチイワシが1匹ヒットした。すると娘が自分の竿を置いて私の釣り上げた魚をはずすとクーラーボックスに収めてくれた。
こうして何度かカタクチイワシを釣り上げていたが、その都度私の魚をはずすのに娘が竿を置いていては自分の釣りも楽しめないだろうと思い、何度目かから自分で魚を針からはずすようにした。カタクチイワシはとても元気がいいので掌の中でビクビクと暴れていた。鱗が取れやすいようで、クーラーボックスに収めた後の手には白く光るものがいくつか付いていたのでバケツの海水で手を洗った。ただ、擬似針が何度か手に刺さるのには閉口した。それと、時折、擬餌針同士が絡まることも…。
周囲の釣り人に当たりがくるとこっちの竿も当たり始めるので、魚が群れて回遊する様が想像できた。
次第に夜は明けて、雲に霞む六甲の連山が姿を現した。夜釣りを楽しんでいた人たちも徐々に姿を消し、新たな釣り人たちと入れ替わった。釣りを始めて2〜3時間が経過した頃、空腹感がでてきたので、娘が用意してくれた握り飯を頂戴した。
カタクチイワシの他には、時折、ママカリ(サッパ)が針にかかった。陽が高くなるにつれ気温も上昇してきたので、上着を脱いでサングラスを装着し、釣りを続けた。
8:23、釣りに没頭しているとみんなが南を指差して何やら言っていたので視線を向けてみると、見慣れない大きな物体が海面に浮いていた。何と、潜水艦だった。こんな近くで潜水艦を見るのは初めての経験だ。見ていると10数名の乗組員が艦の上に並んでいた。
3艘のタグボートが近づいていくと、北側にある川崎重工のドックに曳航していった。
その後、一人の男性が釣り場をチェックするかのように巡回してきた。我々のクーラーボックスを覗いて、カメラのシャッターを切っていた。娘曰く、近くの釣具店の男性だとか。写真は店のブログに掲載するそうである。
暑さが増してくる頃、当たりもなくなってきたので南側の岸壁の釣り人がいなくなった場所に移ってみた。するとまた当たりが戻ってきた。その後、最初の場所と南側とを行き来しながら釣りを楽しんだ。
10:24、遠足と思われる小学生を乗せた遊覧船が近くの波止場を出航し、我々の前を通過していくとき、手を振る子どもたちが我々に向けて歓声を上げていたが、私は竿にかかった魚を釣り上げるのに追われて相手をすることはできなかった。
エサを使い切ると帰り支度の開始だ。
カタクチイワシ:55匹、ママカリ:13匹と、まあまあの釣果(ちょうか)だったので、まずまずの初陣を飾ることができた。近くのコンビニで手を洗うと、娘はクーラーボックスを撮影していた釣具店に立ち寄ろう、と言い出した。
お店では釣り客の釣果やプチ情報を仕入れてブログで情報発信しているらしい。娘が我々のクーラーボックスを店員に差し出すと、別のケースに我々の収穫を並べ、我々と一緒に撮影してくれた。これもブログ用だとか。店員は、新たな袋に釣果を入れ直すと塩氷(しおごおり)と一緒にクーラーボックスに収めてくれた。
帰宅したのは午後2時前だった。両腕は日焼けで真っ赤になっていた。12時間の外出にぐったりしていると、娘が、
「もうブログにアップされてるよ」と知らせてくれた。
(←「フィッシングマックス」のブログより転載)
確かに本日の釣果を前に親子のツーショットが掲載されていた。
土曜の山歩きに日曜のサッカー。1日おいて今日の釣り。疲労が蓄積される一方だが、釣りが新たな趣味になるのかなぁ。。。